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2007年10月25日 (木)

小さな世界

 研究で使うかどうかわからないのだが、今、ネットワーク論の本を読みふけっている。

 ネットワーク論は、本当に魅惑的だ。今まで私が慣れ親しんできた分析は、主として、ある人の属性と行動や考え方の関連性をみるようなものであった。その一方で、ネットワーク論では、属性よりも人と人との間にある見えないリンクに注目して分析を行うのである。この気づきは、だまし絵のように、今まで花瓶だと思っていたものが、実は背景だったと気づいたのに似ている。

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 少し前に「リーディングスネットワーク論」という本を読了した。この本は、ネットワーク論の古典とも言える論文7編の日本語訳からなっており、ネットワーク論の入門編としては最適な1冊である。

 この中で一番面白かったのは、ミルグラムが1967年に発表した論文「小さな世界問題」である。たまたま会った二人の間に、たまたま共通の知り合いがいることがある(アメリカではこうした時に"It's a small world!"というのが常套句なんだそうだ)。私も小さな世界問題に関することをblogに書いている(2007年7月5日のblog記事参照)。この論文ではそうした経験のメカニズムを、実験によって裏付けたものである。

 この論文の実験では、手紙を遥か遠方にすむ目標人物に向けて知人からその知人へと転送することによってどれくらいでたどりつけるのかを確かめている。たとえばカンザス州ウィチタに住む人(A)からマサチューセッツ州のケンブリッジに住む神学校の先生の妻(B)に向けて手紙を転送するのである。このAという人とBという人は、まったく知り合いではないにも関わらず、平均してたった5人の媒介者を経て手紙を送ることができたのである。

 もちろん実験はすべてうまくいったわけではなく、160人の実験のうち44人の連鎖が途絶えずに到達し、残りの116人の連鎖は途中で途絶えてしまっている。それでも、まったく見知らぬ人同士がたった5人の媒介者を経るだけで、つながってしまうという実験結果は本当に面白い。

 同様の追試は、日本でも数多く行われている。私が昔見たテレビ番組では、たしか鹿児島に住むある一般の方から明石屋さんまさんにたどりつくには何人隔てればいけるのかという実験をしていた。この場合も5,6人でさんまさんにたどりつけたように思う。

 なぜこんなに少ない人数で全くの他人同士がつながってしまうのか?一人の人間に500人の知り合いがいるとする。その知人にも500人の知人がいるとする。もし仮にその知り合い同士が重なり合わないとした場合(そんなことはあるはずもないのだが)、3人隔てただけで500の3乗で日本の人口に匹敵する人が間接的に知り合いということになる。実際には知人同士のネットワークは重なりあっているので、3人ではなくてもう少し多い人数を隔てれば1億人以上の人と間接的に知り合いになってしまう。

 この広い世界は、思っているよりも狭いようだ。北海道で星を眺めている牧場主と六本木ヒルズで働いているビジネスパーソンの間も、まるで関係がないように見えて、知り合いの知り合いという細い絆で繋がっているのかもしれない。私とたまたま何かの検索ワードでやってきたあなたとはまるで他人同士だけど、本当に関係がないとはいいきれないのかもしれない。そう思うとこの世界で生きていくのが何だか楽しくなる。

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参考文献

野沢慎司(編・監訳):リーディングス ネットワーク論―家族・コミュニティ・社会関係資本、 勁草書房、2006

S Milgram: The small world problem, Psychology Today, 1967

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