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2009年4月10日 (金)

大人しい若者

 4月になって、新4年生が研究室に入ってきた。今年入って来た4年生は、とにかく大人しい。反応が薄い。でも、大人しいのは4年生だけじゃない。M1もM2もおとなしい。ここ数年間で卒業した子たちの中にも大人しい子、何を考えているのかが分かりにくい子はたくさんいた。

 学生たちとしゃべっていると、私の頃よりも同世代間の同調圧力が強いような気がする。彼らは人と違うことをするのを恐れているようにみえる。もし、何かに手を出して失敗したら、自分で責任を取れと批判されるだろうと考えている。それに、一回道から踏み外したら、元の道に戻るのがものすごく困難なことだと考えているようだ。もちろん学生の中でも元気な子はいるのだが、周りの学生たちは「あの人は変わっている」「自分とは違う」というレッテル貼りをする。

 少し前までは、若いんだから、もっとシャキッと元気よくすればいいのに、と冷たく思っていた。だけど、どうも個人的な問題だけでなく、若い子達を取り巻く環境が悪くなっているせいもあるかな、と最近は思っている。

 若者をとりまく環境悪化の端的な現象として、国立大学の学費はガンガンあがっているというのがある。年間の授業料は、10年前に比べて10万円あがっている。これ2割強上がっているん だけど、給料水準ってこんなに上がっている?上がっていないよね。マクドの時給、10年前と変わっていないし、大卒の初任給も変わっていないもの。学費の上昇に合わせて、学生への仕送り額 もどんどん減っているらしい。米百俵の話はどこに消えたんだ?

 学生の口から聞く話としては、就職活動の厳しさがある。国立大学の理系の学生であったとしても、ワーキングプアや派遣社員の問題は全然他人ごとじゃない。一昔前は学内推薦さえもらえれば、どこかに就職できた*。でも、今では学内推薦なんて、ないよりもあった方がまし、なくてもあまり困らないという代物。むしろ、大学は、学生にとって「シュウカツだけでなく、研究もしなさい」という足を引っ張る存在でしかない。

 それに、就職ができたとして幸せになれるかというと、そうでもない、という噂も入ってくる。サービス残業なんてあたりまえ、ボーナスが出ているだけましな方とか。公務員になったらなったで、安定した生活は得られるかもしれないが、「税金の無駄づかい」と市民やマスコミにたたかれる。国家公務員は、自殺率がめちゃめちゃ高かったりするし。SEやコンサルタントは鬱病で療養中の人間が多いよ、とか。

 こういう状況の中で、「未来は希望に満ちている」といえるのは、よっぽど、鈍感か、何か信念を持っているかのどちらかだ。

 でも、私は、学生さんたちには、信念を持って「未来は希望に満ちている」と、思っていてほしい。で、そう思うためにはどうしたらいいかというと、いろんな経験をすることが一番の近道だと思う。

 若さの特権というのは、失敗できるということにあると思うんだよな。失敗を恐れていたら、小さく小さくまとまってしまって、新しいもの、楽しいものを生み出せない。自分たちで道を作っていくのが、回り道に見えるかもしれないけれど、ハッピーになるための近道だ。だから、多少失敗してでも、何かに取り組んでいってほしい。自己責任論なんて気にしないでほしい。穴の中から世界を見ている時は、失敗したら誰も助けてくれないんじゃないかと思えるものだけど、そうでもない。大丈夫、君らがした失敗ぐらいであれば、誰かが穴埋めしてくれるし、君らが年取ったときに、他の人の穴埋めをすればいい。そういう経験を積み重ねれば、きっといろんな希望を持てるようになる。

 そういう思いがあるので、先日、学生たちとの勉強会の最後に次のような話をした。勉強会というのは、学生同士で研究のやり方や統計を勉強しなおしましょう、という場なんだけど、学生たちを前にして話す場がないので、やってしまった。

 話した内容は、以下のようなこと。

  • 学生のうちに、対価が得られるアルバイトじゃなくて、ボランティアをやってほしい。どんな分野でもいい。学生で時間に比較的余裕があるうちに、ぜひやってほしい。
  • 君らが社会人になったとき、ウリになるもの、拠り所になるのは君らの学歴じゃない。どういう経験をしてきたのかということだ。一番怖いのは、何もやらないで、何となく時が過ぎ去ること。
  • ボランティアというのは、する側もされる側も相互で依存し合っている。たぶん、君らがボランティアを始めて、最初の頃は、相手に何かを与えているという意識になるかもしれない。でも、何回か繰り返すうちに、君自身がされる側の人に助けられているというのにきっと気づく。
  • 大事なのは、自分自身と「他人の問題」を切り取らない、傍観者でいないということ。自分と関係ないと思って他人事と済ますのではなく、多少おせっかいになってほしい。
  • 私が学生の頃にした視覚障害者のガイドヘルパーについて。

 学生達の反応が非常に薄かったので、心に響いたかどうかはよくわからない。まあ、こういう恥ずかしい話に反応するのは、恥ずかしいことだから仕方がない。説教くさいと思われただけだと辛い。

 それにしても、こんなことを昼間っからお酒も飲まずにいうなんて、私も年をとって、図々しくなったなぁ。自分のこと全部棚上げやん(先月は、やる気がなくて土ごもりしていたのに)。でも、少なくとも嘘はついていないし、本気で思っている。今思い返すと、私ももっともっと若い時にいろんな体験をするべきだった。今からだって、きっともっといろんなことに手を出せる。

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*学内推薦のカードが使えるのは、男子学生だけだった。女子は学内推薦のカード選びからは外されていた(鉄道会社もゼネコンも女子なんかいらないってさ)。カードは、話し合いによって分配されるけれど、ひどい学年はジャンケンによって決めていたらしい。今では考えられないよなぁ。学内推薦でほぼ受かるというのもおかしいと思うけれど、短時間の面接で学生の一生を左右するのも何だかおかしいなぁと思う。


本/書籍に、高見沢 実: 都市計画の理論―系譜と課題高橋 愛典: 地域交通政策の新展開―バス輸送をめぐる公・共・民のパートナーシップ畠中 宗一・木村 直子: 社会福祉調査入門木下 是雄: 理科系の作文技術)を追加。社会福祉調査入門と理科系の作文技術は、学生向けの勉強会のために読みなおした。

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