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2010年11月 5日 (金)

夜中にふと目が覚めると、白い四角い箱にいたたまれなくなって、部屋中にバニラエッセンスをふりまきたくなる

Photo まだ先のことだが、来春、奈良に引っ越すことにした。引越しを決めた理由を書いてみた。

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 夜中にふと目が覚める。暗闇に眼が順応すると、白くて四角い天井が視界に入る。天井だけでなく、壁も白くて四角い。私は、白い四角い箱の中に住んでいる。

 白くて四角い部屋のことを思うと、子どもの頃に読んだ少女の物語を思い出す。多分、松谷みよ子だと思う。田舎から都会に一人で出て来た少女が、孤独にいたたまれなくなって、部屋にバニラエッセンスをふりまくのだ。そして、バニラエッセンスの香りを感じながら、自分がショートケーキの中にいると想像して、孤独をどうにか紛らわして寝るのだ。(この先はうろおぼえなので、間違っているような気がするが)少女の部屋は本当にショートケーキになって、天使達にどこかに運ばれていくのだ。

 大人になった私は、孤独はバニラエッセンスでは紛らわすことができないのを知っている。孤独はあまねくすべての大人が抱えているもので、私一人だけが孤独なのではない。心の中の虎を飼いならすように、自分の孤独と上手に付合っていかないといけない。このニュータウンには、たくさんの白い箱があって、それぞれの箱の中で、たくさんの大人が自分の孤独とどうにかこうにか付合っているのだろう。その孤独は誰とも分かち合うことなく。分かち合いたいと誰も思っていない。

 自分の孤独を弄びながら、この箱に住む理由が私には希薄だと感じる。どうしてここに住んでいるんだったかなあ。子どもの頃に住んでいた家は、天井の木目が人の顔のように見えて怖かった。木の板の天井が懐かしい。あの頃、私は家の中にいる気がする何かに怯えながら、夢の世界に逃げていた。

 

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 私が住んでいるニュータウンは再開発が進んでいる。駅の直近に50階建てのタワーマンションができた。建つ前は、そんな巨大な物が視界の中に入ってくることなど想像できなかったのにも関わらず、できてしまえばあっという間に風景に馴染んだ。

 

 一つ一つの区画が広く高級住宅街が並んでいたはずの場所が、気がつくと更地になってマンションの建設予定の看板が設置されていた。ニュータウンの中に、すっぽりと旧集落や竹林、田畑を残していたK地区も、マンションの建築が進んでいる。詳しいことは分からないが、代替わりする際に土地や古い家屋は売られることが多いときく。相続税を支払うために仕方が無いのだと。

 

 この再開発は、私達が6年前に移り住む前から少しずつ進んで来たものの一端だ。少し前までオールドタウンと揶揄されていたニュータウンであったのに、新築マンションのおかげでたくさんの若い家族が移り住み、子どもがどんどん増えている。ニュータウンを衰退させることなく、維持していくために、再開発は必要なことだと思う。それを望む人も多い。このニュータウンは初期の計画の骨格をきちんと残しているため、子どもがいるような世帯には大変すみやすいと思う。緑地や公園が多く、歩車分離もきちんとされている区画もあるし、各地区で歩いていける範囲に施設が配置されている。特に、私が住んでいる地域は、大阪市内から地下鉄1本でアクセスできる。空港や新幹線の駅にもアクセスしやすい。とても条件がよい。私はマンションのマーケティングには詳しくないが、需要は大きいに違いない。需要が大きいものに、供給側が答えるのは理にかなっている。この再開発は間違っていないと思う。

 

 条件がよろしいですな。でも、果たして、私はこの条件を望んでいたのだろうかというとそうでもない。6年も住んでいれば愛着もわくし、知り合いもたくさんできたし(特に子どものお友達関係が切れてしまうのは本当に悩ましい。親の身勝手で本当に申し訳ない)、私のような田舎から出て来た人間にとって住みやすい地域だとも思うし、便利だと思う。でも、根無し草の私は、そろそろ居場所を変えてもよいような気がした。

 

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 ええと。もうちょっと、もっともらしい理由も書く。

 

 来春、子どもが一人増えることになった。今、お腹の中で成長中。今の家では少し手狭だし、せっかく引っ越すのだから一軒家に住みたかった。

 このニュータウンに引っ越したそもそものきっかけは、夫の父母が住んでいたからだったのだが、義父の退職とともに田舎に帰ってしまったというのも大きい。私達はこのニュータウンを気に入って移り住んで来たわけではなくて、義実家の支援を受けやすいという大変功利的な理由で移り住んで来たのだった。だから、義父母がいなくなったら、ここにいる理由がかなり薄れてしまった。

 

 また、娘が来春小学校に入学するため、引っ越すするなら、入学前にしたかった。保育所の仲良しのお友達がいないのは不安だが、途中で転校するのに比べれば安心して通学できるだろうと思う。

 

 そして、最大の理由。かさぶたを剥がすようで嫌なのだが、アカポスを得られる可能性がとても低いと感じたため、別に、今のような出張に行きやすい場所に住む理由なんかないよなって思ったのだ。それに今は大学に一応籍を置かしてもらっているが、来年度はなくなるから、今の大学の近くに住む理由も薄い。(引越しを理由とともに、とある先生に打ち明けたら「お前は研究から足を洗う気なのか?それでいいのか?」と怒られた。私も自分が他人やったら、「何がやりたいねん」と冷たく言い放つな。んー、でもなー、手に入らへんもんに恋いこがれ続けるのって、むずいし、苦しいやん。研究についてはいろいろと思い悩んでいる。どうにかこうにか研究には足を突っ込み続けたいと思いますよ。うまくいかへんかもしれないけど。ああ、もう!)。

 

 ということで、来春に引越したくて、9月ぐらいから探していた。ある日、オットが奈良で古屋や町家を専門に扱う不動産屋さんを見つけた。そこで、見つけた古家(貸家*)に一目惚れして、決めてしまった。以前、住んでいた京都北山の茶室住宅と異なり、ちゃんと窓にガラスがはまっているし、大家さんも変わっていない。私達が見に行った時は、かなり草臥れた感じの家になっていたが、私達が入居するまでに古家の改修に慣れた大工さんがリフォームしてくれるとのこと。今の四角い家に比べると気密性は落ちるだろうが、住みやすいだろうと思う。

 

*私達夫婦は家を買うつもりはない。車も買わない。大きいものを担うのが恐ろしいから。

写真:今度移り住む予定の奈良の古家の窓ガラスと縁側。ガラスも素晴らしいんよ。微妙に歪んでいる。この歪みは、職人さんが丸いガラスを平面に引き延ばす際に必ず生じるもの。気泡もある。文字通り、職人さんの息づかいを感じる。このガラスは、もう日本では作れないという噂を聞いた。

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コメント

なにはともあれ、おめでとう~!!さんです。
心から祝福。二人で祝福。

そしてあたらしい家も渋いですね。
高度経済成長が追いつく前??のもの?
リニューアル後もチラ見させてください。

投稿: は | 2010年11月 6日 (土) 01時03分

先日はありがとうございました。
確かに、昔住んでいた公務員住宅はそういう無機質さがあって、それが原因で結構おびえていたりしました。

今度の奈良の家でのんびりできるといいですね。

投稿: 梓弓つばさ | 2010年11月 6日 (土) 07時29分

おめでとうございます!
お家、素敵!家族みんな揃ってホント「健やか」に暮らせそうですね。

投稿: 三兄弟の母 | 2010年11月 6日 (土) 20時52分

> は さん
返信が遅くなってごめんなさい。

ありがとうございます。
中の人は、お腹の中で、日々すごい勢いで分裂中です。
エコーで見る度に、倍の大きさになっているので、不思議なものです。

引越先は、築60年の日本家屋で、縁側もあるし、小さいながらもお庭もあるし、引越しが楽しみです。
引っ越したら、しばらく時間があると思うので、blogにまとめると思います。

投稿: ぴか | 2010年11月15日 (月) 21時26分

>梓弓つばさ さん
返信、遅くなってごめんなさい。

団地もニュータウンも嫌いじゃなくて、というか、寧ろ好きで興味深いし、私が住んでいるSニュータウンはよくできているなぁと感心することは多いのです。
無機質さをつまんないって思う時もあるし、機能的だからこそ、多様な住まい方を呑み込む空間のようにも思うし。
んー。難しいです><

なんか、奈良の素敵な古家に住んじゃう私って小洒落ている!みたいな気持ちにもなったりして、そういう自己顕示欲にやれやれって思ったりもするけれど、引越先ではすごく楽しい日々を過ごせると思います。
ぜひ、奈良にも遊びにきてね!

投稿: ぴか | 2010年11月15日 (月) 21時40分

> 三兄弟の母さま
こんばんは。
春には、いろいろと新しい生活が始まるので、とても楽しみです。
三兄弟の母さまみたいに、毎日をわくわくしながら過ごせるようになりたいです!
ぜひ、奈良に遊びに来てください。

投稿: ぴか | 2010年11月15日 (月) 21時45分

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